フィットネス

ジムの退会防止に会員データを使う。来館頻度の変化を見つけて声をかける仕組みと、個人情報の扱い

ジムやスタジオの退会防止に、入館と予約の記録を使う仕組みを作る側の目線でまとめます。来館の間隔がその人のふだんより空いた会員を見つける条件、スタッフが声をかける流れ、結果の記録、利用目的の書き方まで。

この記事の結論:ジムの退会防止に会員データを使うなら、まず入館の記録と予約の記録だけで、来館の間隔が「その人のふだん」より空いた会員を見つける仕組みから始めます。全員に同じ基準をあてるのではなく、会員ごとのふだんの間隔と比べるのがポイントです。仕組みが出すのは声をかける候補と会話の材料までにして、実際に声をかけるのはスタッフにします。声をかけた結果を記録して条件を見直し、記録を分析に使うことは利用目的として会員に示しておきます。

読み手は、パーソナルジムやヨガ・ピラティスのスタジオ、総合型のクラブを運営する方と、会員管理の仕組みを作る開発者です。退会率の目安のような数字は載せていません。個人情報の扱いは、個人情報保護委員会が出しているガイドラインとQ&A(2026年10月2日時点の版)にもとづく一般的な整理です。

退会の前には来館の間隔が空く。「その人のふだん」と比べて見つける

ジムの退会防止でいちばん使える手がかりは、来館の間隔の変化です。退会の申し出より前に、来館の間隔が少しずつ空いていくことが多く、そこで気づければ、申し出の前に声をかけられます。

ただし、「2週間来ていない人」のような全員共通の基準では、うまく拾えません。

会員 ふだんの来館 前回から10日空いたとき
週に3回来る人 2〜3日おき 大きな変化。声をかける候補
週に1回来る人 7日おき 少し空いている程度
月に2回のパーソナルの人 14日おき ふだんどおり

同じ「10日」でも、意味が人によってまったく違います。そこで、会員ごとに直近のふだんの間隔を計算し、それと比べてどれだけ空いたかで候補を出します。

退会防止に使うデータは、入館と予約の記録だけで始める

最初に使うのは、入館の記録、予約と取り消しの記録、契約の状態の3つだけで足ります。体重や体組成、トレーニングの内容まで使おうとすると、記録のそろい方がばらばらで、仕組みが動き出すまでに時間がかかります。

データ どこから取るか 分かること 気をつけること
入館の記録 受付のチェックイン、入館のカード・アプリ 来館の日と間隔 受付を通らない入館(24時間の無人の時間帯など)が漏れていないか
予約と取り消しの記録 予約システム 予約が減った、取り消しが続く 取り消しの理由までは聞かない
契約の状態 会員管理・決済 在籍・休会・退会の申し出の有無 休会中の人を候補から外す
入会日 会員管理 入会してからの期間 入会直後は「ふだん」がまだない
担当トレーナー 会員管理 誰が声をかけるか 担当のいない会員の受け持ちを決める

入会したばかりの会員は、ふだんの間隔がまだ決まらないため、別の条件で見ます。入会してから最初の数週間に来館が少ない人は、習慣になる前に離れやすいので、間隔の比較とは別に「入会初期の見守り」の候補として出します。

声をかける候補を出す条件は、3つに絞る

候補を出す条件は、「間隔の伸び」「回数の減り」「入会初期の来館の少なさ」の3つに絞ります。条件を増やすほど候補が増え、スタッフが全員に声をかけきれなくなるからです。

条件 見るもの 初めの設定の考え方
間隔の伸び 前回の来館からの日数が、その人のふだんの間隔の何倍か 倍率を決めて始め、候補の数を見て調整する
回数の減り 直近の4週の来館回数と、その前の8週の週あたりの回数の比 半分程度に減った人から見る、など運営で決める
入会初期 入会から数週間のあいだの来館回数 店舗の体験から入会までの流れに合わせて決める

倍率や週の区切りは、最初から正しい値は分かりません。仮の値で始めて、「候補になった人のうち、声をかけて戻ってきた人」「候補にならずに退会した人」を見ながら直します。どの値で運用していたかを日付と一緒に残しておくと、あとで比べられます。

PostgreSQL で、会員ごとのふだんの間隔(直近の来館の間隔の中央値)と、前回からの日数を出す例です。

sql
-- 直近の来館の間隔を会員ごとに計算する(休会中・退会の申し出済みは除く)
WITH visits AS (
  SELECT member_id,
         visited_on,
         visited_on - LAG(visited_on) OVER (PARTITION BY member_id ORDER BY visited_on) AS gap_days
  FROM checkins
  WHERE visited_on >= CURRENT_DATE - INTERVAL '120 days'
),
usual AS (
  SELECT member_id,
         PERCENTILE_CONT(0.5) WITHIN GROUP (ORDER BY gap_days) AS usual_gap,
         MAX(visited_on) AS last_visit,
         COUNT(*) AS visit_count
  FROM visits
  GROUP BY member_id
)
SELECT u.member_id,
       u.usual_gap,
       CURRENT_DATE - u.last_visit AS days_since_last,
       (CURRENT_DATE - u.last_visit) / NULLIF(u.usual_gap, 0) AS ratio
FROM usual u
JOIN members m ON m.id = u.member_id
WHERE m.status = 'active'
  AND u.visit_count >= 4          -- ふだんを計算できるだけの来館がある人
ORDER BY ratio DESC;

ratio が決めた倍率を超えた人が、間隔の伸びの候補です。来館が少なすぎて中央値が当てにならない人は、入会初期の条件のほうで扱います。

声をかけるのはスタッフ。仕組みは候補と会話の材料を渡す

候補の一覧は、担当のトレーナーやスタッフが毎日または毎週見る画面に出し、声をかけるのは人が受け持ちます。仕組みが自動で「最近いらっしゃいませんね」と送ると、会員によっては見張られているように受け取り、かえって足が遠のくことがあります。

候補の一覧には、声をかける人が会話を始められる材料を並べます。

一覧に出すもの 使い方
名前と担当 誰が声をかけるかをはっきりさせる
前回の来館日と、ふだんの間隔 「いつもより空いている」ことを数字で確かめる
候補になった条件 間隔の伸びか、回数の減りか、入会初期か
前回の会話のメモ 目標、続けにくいと言っていたこと
直近の予約と取り消し 予約はあるのか、取り消しが続いているのか
前回声をかけた日 短い間に何度も連絡しないため

声のかけ方は、来館したときの一言、担当トレーナーからの個別のメッセージ、次の予約の提案など、ジムの運営に合わせて選びます。文面の型を用意しておくのは構いませんが、送るかどうかと最後の言い回しは担当者が決める作りにします。同じ会員に連絡する間隔の下限も決め、一覧で前回の連絡日が近い人は目立たなくします。

声をかけた結果を記録し、候補の条件を見直す

声をかけたら、その結果を決まった区分で記録し、月に一度、候補の条件が合っているかを見直します。記録がないと、条件を変えたほうがよいのか、声のかけ方を変えたほうがよいのかが分かりません。

記録する項目 区分の例
連絡した日と手段 来館時、メッセージ、電話
反応 予約が入った、返事はあった、反応なし
来館が減った理由(聞けた場合) 仕事が忙しい、体調、目標を達成した、費用、引っ越し、そのほか
次にすること 予約の提案、プランの見直しの相談、休会の案内、何もしない

理由の欄に「体調」とあっても、病名や通院の内容は書きません。病歴は個人情報保護法でいう要配慮個人情報で、取得するには前もって本人の同意を得るのが原則です。退会防止の記録は区分だけにとどめ、トレーニングで配慮が要る内容は、本人の同意を得て別に扱います。

見直しの場では、次の3つを並べて見ます。

  1. 候補になった人のうち、声をかけた人とかけられなかった人:一覧が多すぎて回っていないなら、条件を絞る
  2. 候補になった人のその後:来館が戻ったか、退会の申し出につながったか
  3. 候補にならずに退会した人:どの条件にも当たらなかった理由を見て、条件を足すか決める

来館の記録を分析に使うことを、利用目的に書いておく

入館や予約の記録を分析して声をかける候補を出すなら、その使い方を利用目的に書き、入会時の規約やプライバシーポリシーで会員に示しておきます。個人情報保護委員会のQ&Aは、本人の行動や関心などの情報を分析する処理を行うなら、その処理まで含めて利用目的を特定するよう求めています。

利用目的の書き方の例です。

・入館および予約の記録を分析し、ご利用の状況に応じたトレーニングのご提案、予約のご案内、継続のためのサポートを行うため

運用の側でも、次の4つを決めます。

決めること 内容
見られる人 候補の一覧は、その会員の担当と店舗の責任者だけが見られる
持つ期間 分析に使う入館の記録をどこまでさかのぼって持つか
外に出さない 候補の一覧を、会員のいない場所での共有や外部の道具に貼り付けない
使わないもの 健康に関わる情報を、候補を出す条件に使わない

ガイドラインの通則編によれば、利用目的は「事業活動に用いるため」程度の書き方では足りず、できる限り具体的に特定することになっています。退会防止の仕組みを入れるときは、規約を見直す機会でもあります。

退会の手続きを引き止めの場にしない

退会防止の仕組みは、来館が減り始めた段階で声をかけるためのもので、退会を申し出た人を引き止めるためのものではありません。退会の手続きを分かりにくくしたり、申し出のたびに長い面談を求めたりすると、会員の不満と口コミへの影響のほうが大きくなります。

退会を申し出た人には、休会という選択肢があることを一度だけ案内し、選ばなければそのまま手続きを進めます。休会と退会の扱いを決済の側でどう持つかは、月会費の継続決済で休会・退会を設計する記事で別にまとめています。退会の理由は区分で聞き、候補の条件の見直しに使います。

小さく始めるための5つの手順

退会防止の仕組みは、最初から作り込まず、入館の記録が取れているところから小さく始めます。

  1. 入館の記録の漏れをなくす:受付を通らない入館がないか、記録の取り方をそろえる
  2. 候補の一覧を表で出してみる:画面を作る前に、上の計算を週に一度表に出して、スタッフに見てもらう
  3. 声をかける担当と頻度を決める:担当のいない会員の受け持ちも決める
  4. 結果の区分を決めて記録を始める:理由と反応を決まった選択肢で残す
  5. 月に一度、条件を見直す:倍率と週の区切りを直し、変えた日付を残す

ここまで回ってから、予約システムや会員管理の画面に候補の一覧を組み込みます。

株式会社bundlyzeでは多業種向けの予約管理システムを、企画の段階から運用に入った後まで開発してきたほか、AWSを使ったデータ分析基盤の構築も手がけています。入館と予約の記録から候補を出し、スタッフの画面まで一続きで作りたい場合の相談先として、システム開発のサービス紹介があります。

出典と確認日(2026年10月2日)

よくある質問

来館が減った会員に、自動でLINEやメールを送ってもいいですか?

自動で一斉に送るより、スタッフが候補の一覧を見て、その人に合った言葉で声をかけるほうをおすすめします。「最近お見えになっていませんね」という定型の文が届くと、見張られているように感じる人もいるからです。仕組みの役目は、声をかける候補と、前回の会話の記録を担当者に渡すところまでにします。

来館の記録を退会防止に使うことは、会員に知らせる必要がありますか?

個人情報保護委員会のQ&Aでは、本人の行動や関心などの情報を分析する処理を行う場合は、分析の処理も含めて利用目的を特定しなければならない、という考え方が示されています。入会時の規約やプライバシーポリシーに、入館や予約の記録を分析して、利用の状況に応じたご案内やサポートに使うことを書いておきます。

退会の理由に「体調」と書かれた場合、詳しく記録してもいいですか?

病名や通院の内容のような病歴は要配慮個人情報に当たり、原則として、あらかじめ本人の同意を得ないと取得できません。退会防止の記録には「体調」という区分だけを残し、具体的な内容は記録しない運用にしておくのが安全です。トレーニングの内容に関わる配慮は、本人の同意を得たうえで別の記録として扱います。